名刺管理アプリは「営業の仕組化」を考えるうえで避けて通れないツールです。
一定の機能が無料で使えるアプリもあり、個人でも手軽に利用できる一方で、法人で利用するとなると注意すべき点が意外と多いツールでもあります。
- 社員が登録した名刺データは「個人の資産」なのか「会社の資産」なのか
- 退職時やアカウント削除時、データはどのように扱われるのか
- 名刺情報をメール配信や営業活動に利用する場合、法的・契約上の問題はないか
といった点を事前に整理しておかないと、導入してからトラブルになることもあり得ます。
また、アプリによっては名刺交換した相手とつながる「ビジネスSNS」的な特性を持つものもあります。
名刺「個人の人脈」として扱うのか、「会社の顧客資産」として扱うのか。この思想の違いも、運用ルールをどう定めるかに影響してくるでしょう。
本記事では、名刺管理アプリを導入する際の注意点を確認したうえで、「設計思想」と「法人運用の前提」という観点から、目的別に選び方を整理します。
名刺管理アプリとは何を解決するツールか
名刺管理アプリの基本機能は、紙の名刺を撮影し、OCRでデータ化して検索可能にすることです。
しかし、企業にとって本当に重要なのは「データ化」そのものではありません。
- 誰がどの取引先と接点を持っているのかを可視化できること
- 担当者の異動や転職を把握できること
- 退職しても顧客情報が組織に残ること
つまり、名刺管理は「紙の整理」ではなく、「関係性の管理」に近いテーマです。
ここで、個人利用と法人利用の違いが生まれます。
個人利用では、自分の人脈を管理できれば十分ですが、法人利用では「組織として情報をどう扱うか」が中心課題になります。
名刺は「個人情報」か|アプリを選ぶ前に整理しておきたい法律上の注意点
名刺管理アプリの選び方に入る前に、法律上の注意点について確認しておきましょう。
名刺には氏名・所属・電話番号・メールアドレスなどが含まれます。これらは個人情報保護法上の「個人情報」に該当します。
個人情報を取得する場合には、「利用目的の特定(17条)」「取得時の利用目的の通知等(21条)」「不適正な利用の禁止(19条)」などの規制を受けます。
もっとも、名刺交換は業務上の連絡や取引を前提として行われるケースが大半です。
当初想定されていない用途に利用する場合には目的外利用と評価される可能性がありますが、目的の範囲内で利用する場合には直ちに問題となるものではないでしょう。
「個人情報データベース」はより強い規制を受ける
名刺をファイリングしたり、Excelや名刺管理アプリに入力して検索可能な状態にすると、それは「個人情報データベース等」を構成することになります。この場合、当該情報は「個人データ」となり、安全管理措置(23条)や従業者の監督(24条)など、より重い義務が適用されます。
紙やExcelで管理している場合でも、適切なアクセス管理や情報管理体制を整えておく必要があることに注意が必要です。
一方で、名刺管理アプリにはアカウント管理や権限設定機能が備わっていることが多く、適切に運用すれば安全管理措置を講じやすい環境を整えることが可能です。
名刺管理アプリを選ぶ際には、利便性だけでなく、こうした法令上の整理と自社の運用体制に照らして検討することが重要です。
名刺管理アプリを選ぶ前に整理すべき4つの判断軸
ここまでの章で、名刺管理アプリは単なる「紙の整理」ではなく「関係性の整理」を行うツールであること、法人で運用する場合には「組織として情報をどう扱うか」が中心的な課題になることも見てきました。
つまり、名刺管理アプリの選定は、便利なアプリを選ぶことではなく、自社の情報管理の前提をどう設計するかを決める作業でもあります。
そのため、機能の多さや知名度だけで比較するのではなく、いくつかの視点から冷静に整理しておく必要があります。
ここからは、名刺管理アプリを選ぶ際に押さえておきたい4つの判断軸を順に見ていきます。
① 名刺を「個人管理」にするか「会社管理」にするか
名刺管理アプリには、大きく分けて「個人管理前提型」と「共有前提型」があります。
共有前提型では、1人の担当者が登録した名刺情報がチームの共有データベースに反映され、名刺交換していない社員でも確認できる設計になっています。
これにより、
- チームとしての人脈管理が容易になる
- 異動や退職時の引継ぎがスムーズになる
- 顧客対応履歴の可視化が進む
といったメリットがあります。
一方で、中小企業の場合、このような運用が必ずしも馴染むとは限りません。
名刺情報の「共有」が馴染まない企業も
営業担当者が個人商店のように顧客を抱え、一定の裁量を持って対応している企業では、人脈の共有に心理的な抵抗が生じることがあります。
無理に共有前提のツールを導入すると、名刺情報が意図的に入力されなかったり、実際の接点とシステム上の情報に乖離が生じたりする可能性があります。結果として管理精度が下がり、かえって混乱を招くこともありえます。
このような企業では、共有範囲を選択できる設計にしつつ、まずは個人の営業活動を支援するツールとして導入し、徐々に組織管理へと移行する運用が現実的です。
名刺を「個人の人脈」として扱うのか、「会社の営業資産」として扱うのか。この前提によって、選定すべきツールも、導入設計も大きく変わります。
② 単体利用か、業務フローに組み込むか
名刺管理アプリを「単体ツール」として使うのか、それとも営業プロセスの一部として組み込むのか。この違いは、導入後の活用度を大きく左右します。
単体利用の場合
名刺管理アプリ単体でも
- 「名刺どこやったっけ?」が無くなる
- 会社名や氏名で素早く検索できる
- いつ、どこで会ったかなどの情報を確認できる
- 部下などに担当者情報を引き継げる
などの使い方が可能になります。
中小企業では紙の束を探す手間がなくなるだけでも、業務効率は大きく改善します。
このような使い方を想定する場合は、名刺管理アプリの操作性やテキスト化の精度などを中心に選べばよいでしょう。
業務フローに組み込む場合
一方で、名刺情報をより踏み込んで利用する場合は、別の判断軸が必要になります。
- 名刺情報を顧客管理表に連携する
- 商談管理や案件進捗と紐づける
- メール配信やフォロー履歴と連動させる
このような活用を想定する場合は、他ツール(kintoneやCRM等)との接続性やAPI連携の有無などが焦点になるはずです。
定期的に営業メールを送付する程度なら「CSV出力機能」があれば十分かもしれません。
反応率をスコア化して対応を分岐させるような複雑なことをやるならば、専用ツールとの連携が必要になるでしょう。
「名刺情報を何に使うか」によっても、ツール選択の判断は変わるのです。
③ 社外との“つながり”をどう考えるか
名刺管理アプリの中には、単なる「保管ツール」ではなく、名刺交換した相手とアプリ上で“つながる”設計を持つものがあります。
例えば、
- 相手が異動・転職すると通知が届く
- 名刺情報が自動更新される
- アプリ上で相手のプロフィールが確認できる
といった機能です。
名刺管理というよりも、「ビジネスSNS」と言ったほうが思想的には近いかもしれません。
「ビジネスSNS」は企業を選ぶ
このような仕組みには、「担当者の異動にすぐ気づける」「人脈の変化を自動で追える」といったメリットがあります。
一方で、
- SNS特有の「反応圧」による営業担当者の負担増
- 顧客とのつながりが「役割」ではなく「担当者個人」に固定されやすい
- 外部プラットフォームへの依存度が高まり、ツール変更の難易度が上がる
といったリスクもあります。
すでに営業担当者の顧客フォロー意識が高く、担当者レベルでのつながりも重視する企業であれば、この設計は効果を発揮しやすいでしょう。
しかし「顧客接点を組織で共有したい」「SNS的な負荷を避けたい」と考える企業にとっては、こうした設計が必ずしも最適とは限らないことには注意が必要です。
④ データの出口は確保されているか
名刺管理アプリを選ぶ際、意外と見落とされがちなのが「データの出口」です。
導入時には便利に感じられても、数年後に別のツールへ移行したくなる可能性は十分にあります。そのとき、名刺データを問題なく取り出せるかどうかは、極めて重要なポイントになります。
無料ツールではエクスポートが使えない場合も
多くの名刺管理アプリには、CSVなどによるエクスポート機能が用意されています。
別のツールへの移行が必要になった場合はいったんCSV形式でデータを出力し、別のツールにインポートすることでスムーズな移行が可能です。
しかし、すべてのツールでエクスポート機能が提供されているわけではありません。特に無料プランでは、この機能が制限されているケースがあります。
例えば、知名度の高い「Eight」では、有料プランではエクスポート機能が提供されていますが、無料プランでは制限されています。
エクスポートだけでは済まないケースも
運用の仕方によっては、データのエクスポートだけでは済まない可能性もあります。
例えば、名刺に付随するメモ情報やタグ情報、共有設定などは、移行先のツールによっては引き継げない可能性もあります。
ビジネスSNS的な機能を運用している場合、自社と取引先が同じツールを使っていないと十分な効果を発揮することができないでしょう。
名刺データは取り出せても、「設計思想」は持ち出せないことがあるのです。
名刺管理アプリは、使えば使うほどデータが蓄積されます。
名刺管理アプリは「始めやすさ」だけでなく、「やめやすさ」も重要なのです。
主要3ツールを4つの判断軸で整理する
ここまで、名刺管理アプリを選ぶための判断軸を整理してきました。
ここからは、実際に主要な名刺管理アプリを判断軸に当てはめて比較してみましょう。
今回取り上げるのは、以下の3つです。
- Eight
- myBridge
- Sansan
① 名刺の管理主体で判断する
名刺情報を「個人主体」で管理するか、「会社主体」で管理するかで整理するという視点でみると、下記のように整理できます。
| アプリ | 位置づけ | 特徴 |
|---|---|---|
| Sansan | 企業管理寄り | 名刺は「会社の営業資産」。共有前提設計。 管理者権限・統制機能が中心。 |
| Eight | 個人管理寄り | 基本は個人アカウント起点。Eight Teamで共有可能だが、 人脈思想が残る設計。 |
| myBridge | 個人管理寄り | 個人の名刺保管が中心。無料プランでもCSV出力で 組織活用が一定可能。 |
企業管理との親和性で考えるとSansanが最も高く、EightとmyBridgeは個人寄りという結果になりました。
EightとmyBridgeに関しては、個人利用を前提とした「無料プラン」が用意されています。
いずれも有料プランでは組織共有が可能になるため、個人起点から組織利用へ拡張できる設計を備えているといえます。
② 単体利用か、業務フローに組み込むか
名刺管理アプリを「単体の整理ツール」として使うのか、それとも営業プロセスの一部として組み込むのか。この違いも、ツール選定における重要な判断軸です。
この観点で主要3ツールを整理すると、次のようになります。
| アプリ | 業務フロー組み込みとの親和性 | 特徴 |
|---|---|---|
| Sansan | 高い | APIで多様なツールとの連携が可能。 営業基盤として活用する思想が強い。 |
| Eight | 中間 | Hubspot Kintoneとの連携機能を提供 単体利用でも完結しやすい設計。 |
| myBridge | 中間 | 名刺管理アプリとしての単体利用が中心。 外部連携はCSV中心。 |
Sansanは、単なる名刺整理ツールというより、営業データ基盤の一部として使うことを前提に設計されています。単体利用も可能ですが、本来の強みはCRM連携や営業可視化にあります。
一方、EightとmyBridgeは単体利用との親和性が高く、まずは「名刺を探しやすくする」という目的から導入しやすい設計です。
ただし、いずれも有料プランでは共有や外部連携が可能であり、単体利用から業務フロー組み込みへと拡張できる設計を備えています。
③ 社外との“つながり”をどう考えるか
名刺管理アプリの中には、単なる「保管ツール」ではなく、名刺交換した相手とアプリ上で“つながる”設計を持つものがあります。
この思想をどう捉えるかは、企業にとって重要な判断軸になります。
| アプリ | つながり機能 | 特徴 |
|---|---|---|
| Sansan | 補完的 | 組織資産としての管理が中心。 自動更新などの機能あり。 |
| Eight | 強い | 名刺交換=つながり。 異動通知・自動更新などの機能あり。 |
| myBridge | ほぼ無し | データ保管型。 外部との自動接続思想は持たない。 |
EightはビジネスSNSのような「つながり」機能を有しており、名刺交換した相手がEight上で情報を更新すると、プロフィールや勤務先情報が反映される仕組みがあります。個人同士の関係性を継続する設計といえます。
SansanにはEightのような個人間の“つながり通知”機能はありません。ただし、名寄せ機能や企業データベースの補完機能を通じて、企業情報や役職情報が整理・更新される仕組みがあります。
これは個人同士の接続というよりも、「組織としての接点管理」を支援する設計といえるでしょう。
myBridgeにはそのような接続・通知機能はなく、基本的には名刺データの保管・検索に焦点を当てた設計です。外部との自動的な接続思想は持たないと整理できます。
④ データの出口は確保されているか
名刺管理アプリを導入する際、意外と見落とされがちなのが「データの出口」です。
導入時は便利でも、
- 将来、別のツールへ移行したい
- SaaSの仕様が変わった
- 料金体系が変更された
- 会社の方針が変わった
という事態は十分に起こり得ます。
そのとき、名刺データを問題なく取り出せるかどうかは、極めて重要なポイントです。
| アプリ | エクスポート | 特徴 |
|---|---|---|
| Sansan | 可能(法人契約) | 組織管理前提。 移行設計も考慮されている。 |
| Eight | 可能(無料版は不可) | 無料版では制限あり。 「つながり機能」という注意点も |
| myBridge | 可能(無料版でも可) | 無料版でもCSV出力を提供。 テスト導入しやすい設計。 |
有料プランであればいずれのツールもCSVなどによるエクスポートが用意されています。
違いが出るのは無料プランの設計です。
Eightは無料プランではエクスポート機能が制限されています。一方でmyBridgeは無料プランでもCSV出力を提供しており、導入テストや移行検証を行いやすい設計になっています。
また、Eightは「つながり」機能を持つプラットフォーム型の設計であるため、単なるデータ移行だけでなく、人脈の扱いをどのように設計するかもあわせて検討する必要があります。
まとめ:設計思想と自社の目的を前提に選ぶべき
ここまで、名刺管理アプリを選ぶための4つの判断軸を整理してきました。
① 名刺を「個人管理」にするか「会社管理」にするか
② 単体利用か、業務フローに組み込むか
③ 社外との“つながり”をどう考えるか
④ データの出口は確保されているか
この4つの観点で見ると、各ツールの位置づけは次のように整理できます。
- Sansan
→ 組織資産としての管理を前提とした設計。営業基盤として活用したい企業向け。 - Eight
→ 個人起点で始められ、チーム運用へ拡張可能。人脈管理思想を重視する企業に向く。 - myBridge
→ データ保管型。シンプルな管理やテスト導入との相性が良い設計。
重要なのは、「どれが優れているか」ではなく、自社が名刺をどう扱いたいのかという前提を先に決めることです。
名刺を企業資産として一元管理したいのか。
営業担当者の裁量を尊重しつつ整理したいのか。
まずは小さく試してみたいのか。
この前提が定まれば、選択肢は自然と絞られてきます。
今からテスト的に導入するなら
名刺管理アプリの本格導入には、社内ルール整備や運用設計が必要になります。
しかし、いきなり法人契約を結ぶのではなく、まずは小規模なテストから始めるという選択肢もあります。
その観点で見ると、無料プランでもCSVエクスポートが可能な myBridge は、テスト導入との相性が良いといえます。
個人アカウントで一定期間運用し、
- OCR精度
- データの検索性
- 社内共有のしやすさ
- エクスポートの形式
などを確認したうえで、本格導入を検討するのが現実的です。
EightやSansanは思想や設計が明確な分、最初から方向性が合っている場合に力を発揮します。
一方で、「まずは試してみたい」という段階では、出口が確保されたツールから始める方がリスクは小さいでしょう。
まとめ|名刺管理アプリは「思想」で選ぶ
名刺管理アプリは、単なる業務効率化ツールではありません。
名刺管理は「紙の整理」ではなく、「関係性の管理」に近いテーマであり、法人利用では「組織として情報をどう扱うか」が中心課題となります。
名刺管理アプリを選ぶ際には自社の情報管理の前提をどう設計するかを決めておくことが重要です。
名刺管理アプリは、導入した瞬間から営業の設計に影響を与えます。
だからこそ、機能比較だけでなく、
- 情報は誰のものか
- どこまで共有するのか
- 将来どう活用するのか
といった前提を整理したうえで選ぶべきでしょう。
そのうえで、まずは小規模にテストし、自社に合う運用を確認してから本格導入を検討するのが現実的です。
名刺は単なる紙ではなく、営業の履歴であり、企業の資産です。
どのツールを選ぶにしても、「便利だから」ではなく「設計思想が合うから」で選ぶことをおすすめします。

